夜明けの星さん 男性 46歳
神様どころか俺は善人でもないし、素敵なんてとんでもないよ。
親父殿にとっても良い息子どころかとんだ親不孝者。とうとう孫を抱かせてやることも出来ず、心配かけたまま逝かせちまった。
うちの親父殿も三度目の癌だったよ。
三度とも医師から俺が告知を受け、俺から本人に告知した。気丈でプライドの高い人だったから自分の生死のことで取り乱すような人じゃないし、自分の幕引きは自分で決断したいだろうというのは性格を受け継いだ俺にはわかったからね。
でも、三度目のときに俺から言ったよ。「もうこれ以上、痛い思いしなくていいだろう?親父はもう十分戦ったし、自分の好きなこともやり尽くしたし、見事な人生だったろ?あとは天に任せようよ。」ってな。
でも結局、親父殿の命に執着したのは本人よりも俺の方だった。
親父殿が遺言みたいなことを残そうとするんだけど「縁起悪ぃこというな」ってわざと取り合わなかったし、三ヶ月も病院に泊まりこんでたせいか、俺は無意識に苛ついてるようなときがあってね、病院の食事がまずいといってあまり食が進まない親父殿の態度に腹を立てて、あるときつい怒鳴っちまったんだ。俺にしてみりゃ、食わなきゃ衰弱しちまうという思いがあって、毎回食事を摂らせることに必死だったんだけどね。
でもね、親父殿は前述したみたいにプライドの高い人だったからね、息子に怒鳴られたのが相当ショックだったみたいで、それから全くと言っていいほど食事を摂らなくなった。自分で幕を降ろすことに決めちゃったんだね。
俺はどうしても親父殿に言っておきたいことがあったんだ。だけど俺が枕元で「親父、俺は親父の息子に生まれて最高に幸せだったぞ。有難う。」って伝えたときにはもうほとんど意識が無かったからな。聞こえて無かったかも知れないな。
○子ちゃんの父御殿にはまだまだ長生きしてもらいたいし、長生きしてくれるだろうけど、感謝の気持ちは早いうちにはっきりと言葉で伝えておいたほうが俺みたいに後悔しなくて済むぞ。
感謝の言葉は早いに越したことはないし、何度伝えたっていいもんだからな。