サイエンスカフェは最終回。今回は日本医科大学大学院教授の佐久間康夫先生をお招きしました。脳と性ホルモンの専門家である佐久間先生に、男脳と女脳の違いや恋愛と脳との関係、性ホルモンの役割などについて、やさしく解説していただきました。
第1回 男と女、脳の違いとは?
脳には男脳と女脳があり、それが男性と女性の行動や考え方を支配しているという話をよく聞く。脳の画像写真を見ると、たしかに男性の女性の脳には違いがある。しかし佐久間先生によると、その違いが何にどう影響しているのか、わかっていないのだという。
白河さん ここ数年「脳ブーム」が続いています。トレーニングで脳が活性化するとか…。
佐久間先生 「これをすれば脳が活性化する」なんて言われるけど、実は脳についてはまだまだわからないことが多いのが現実です。わからないから、みんな言いたい放題(笑)。それに僕たちが研究しているのはネズミの脳。ネズミの脳はこうだから、人間の脳もこうだろうという短絡反応になって困っています。
白河さん 脳には男脳と女脳があって、それが行動や考え方に影響を及ぼすとも言われますが。
佐久間先生 ネズミでは雄の脳と雌の脳で、はっきり差がある場所があることがわかっています。ただし、その部分が何やっているかがわからない。
白河さん 人間の脳ではどうですか?
佐久間先生 男と女で働いている部分に違いがあることはわかっています。今は脳の画像解析が進んで、例えば、文章を黙読させた時の大脳皮質の血流変化をMRIの画像を見ると、男性と女性で血流量が増えている場所が違う。ただ、血流量が増えた場所では一生懸命に神経細胞が働いていることはわかるのですが、どんな神経細胞がどんな活動をしているかまではわかっていない。人の画像診断は本当にわけわかんない(笑)。
白河さん どんな働きをしているか、調べる方法はないのでしょうか。
佐久間先生 50年くらい前にはアメリカで、その場所に電極を突っ込んで電気刺激をしてみる実験をしていました。でも今は、倫理的にそんな実験は許されません。だから、みんなで好き勝手なことを言っている。
白河さん 男性と女性の脳を比べると形が違う部位があるけれど、だからといって、女性は地図が読めないだとか、短絡的な言い方は正しくないということですね?
佐久間先生 それもある程度は正しい。1,000人の女性と1,000人の男性を比べれば、という統計学的な話において、です。男性が運転して、女性がガイドすると道に迷う、けんかになるという話ではありません。
白河さん 佐久間先生は、空間認識力を試すテストでは、男性のほうが正解率が高いけれど、対象物配置テストでは女性のほうが正解率が高いという例を挙げていらっしゃいましたが。
佐久間先生 そうですね。3次元的な把握は男のほうが得意です。ただこれも1000人対1000人で、200問くらいを短時間でワーッとやらせると、どちらかというと男のほうができがいい、という話です。
白河さん ということで、冷蔵庫の中のものを探すのは男性のほうが得意とかいう話も聞きますが。
佐久間先生 どうかなあ、それはビールが飲みたくて一生懸命かき回しているだけなのかも(笑)。
白河さん 対象物配置テストは、なぜ女性のほうが正解率が高いのでしょうか。
佐久間先生 女性は画像全体のイメージとして覚えるからといわれますね。一つの思い込みとして、男は分析的だというのがありますよね。だから、男は一つずつ覚えようとして覚え切れないんだろうと心理学者は言うけれど、脳のどこの部位がそれをやっているのか、という証拠はないんです。