白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回は、動物の行動学が専門の麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室教授、菊水健史さんをお招きしました。動物と人間、求愛行動の似ているところは何か、違うところは何かというお話から、恋愛上手になるためのヒントを探ります。

第2回 雌の配偶者戦略――「美しい雌」は人間だけ

白河さん ヒトの子育てはとても手間がかかるので、ヒトは共同繁殖といわれていますね。父親、祖父母、それ以外の人と、いろんな手が必要です。現代のような核家族はヒトの子育てにはよろしくない。

菊水先生 まったく正しくありません! 家族は核状態でも、それぞれの核をつなぐ何かが地域にないと、ちゃんとした育児はできません。町内会でお母さんを集めて育児サークルを作ような試みもありますが、やっぱり弱いですね。何かあった時に子どもをポンと預けられる関係もないし。ひと昔前の大家族だった頃は、お姉ちゃんの子どもの世話をしたりして、若い頃から育児を経験していました。そうした経験がないと、自分が親になった時に親行動が出ないんですよ。

白河さん 経験値が必要ということですか。

菊水先生 霊長類では確実に必要だといわれています。小さい子どもに触れた経験がないと、自分が母親になった時に不安にとりつかれ、ゆっくりと楽しみながら育児ができないんです。猿の場合はヒステリックになって、小猿を殺します。

白河さん 動物園生まれの母親が子育てしない話はよく聞きます。子どものうちに、疑似子育てで練習する必要があるんですね。最近、子どもが好きじゃない、欲しくないという女性が多いんです。聞くと一人っ子だったり従兄弟がいなかったりで、子どもを触った経験がないことが多いですね。

菊水先生 男性があまりディスプレイしなかったり、女性が結婚に対して関心がないという問題は、母子間の関係に起因していると思っています。モルモットの実験では、母親が妊娠中にストレスを受けると、生まれてきた雄はすごく未熟で、成熟雄になれないんです。逆に雌はすごく攻撃性が上がる。雄と雌が行動上逆転するような感じになります。

白河さん 妊娠期から始まっているんですね。それはその後の子育てで挽回できるんでしょうか?

菊水先生 ある程度はできると思いますが、妊娠期のストレスは脳の一部の神経核まで変えてしまうので、100%はリカバーできませんね。

白河さん 妊娠期に女性がしっかり守られるのは、とても大切ことですね。

菊水先生 出産後の子育ては、その後の愛着形成にとても大事なので、育児の期間まで含めてストレスを少なくすることが大切ですね。



「第3回 人間にも応用できる戦略は?」へつづく

今週の気になる「お言葉」
女性はきれいに見せることで、資源保有の高い男性から選んでもらうという戦略です。何年にも渡り、資源を持てるのは人間だけなので、美しい雌動物は人間にしかいないのではないでしょうか。

普段は重いコートを着ていて、飲みに行って2人きりになったらコートを取ればいい。気が合ったら、ちょっとだけ膝を叩く、肩を触るというのが、女性側からのシグナル。それを限られた男性にだけ出すと、男は引っかかりやすい

浮気遺伝子というのもあるんですよ。一夫一妻のプレーリーハタネズミの中にも、ペアの絆が堅いタイプと緩いタイプがいて、その遺伝的多型(遺伝子の性格の違い)を調べると、バソプレッシンというホルモンの受容体に差があることがわかっています。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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菊水健史
麻布大学 獣医学部伴侶動物学研究室 教授

1970年、鹿児島県生まれ。東京大学獣医学科卒業。獣医学博士。三共株式会社(現第一三共株式会社)神経科学研究所研究員、東京大学農学生命科学研究科(動物行動学研究室)助手を経て、2007年より麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室准教授、09年より同教授。専門は行動神経科学。同研究室では、母と子の絆と発達との関係、母子間・雄雌間のコミュニケーションの解析、犬の社会行動の3つを主なテーマに研究を行っている。最新著書に『いきもの散歩道—動物行動学からみた生物の世界—』(文永堂出版)がある。