白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回は、動物の行動学が専門の麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室教授、菊水健史さんをお招きしました。動物と人間、求愛行動の似ているところは何か、違うところは何かというお話から、恋愛上手になるためのヒントを探ります。

第2回 雌の配偶者戦略――「美しい雌」は人間だけ

白河さん 雌には優秀な雄をゲットしたいという気持ちが強いけれど、その後の子育てとなると、イクメン(育メン)が好まれる種もあるそうですね。

菊水先生 ほ乳類ではプレーリーハタネズミが一夫一妻で、雄が育児に関わります。マウスも関わりますね。間接的に育児に関わるのはチンパンジー、ゴリラ。子どもの遊び相手になって面倒を見ます。

白河さん 鳥には子育てする雄が多いですよね、それはつがいだから?

菊水先生 鳥は母乳で育てないので、雄動物と雌動物が育児に関する投資が基本的に同等なんです。そのため、夫婦で協力しあったほうが効率がいい、母乳で育てるほ乳類は、どうしても母親の負担が大きくなり、父親の役割はあまりなくて母親依存の育児になります。

白河さん チンパンジーやゴリラなども、群の長になる雄はケンカに強いだけではなく、親身になって雌に寄り添う雄が好まれるという報告があるといいます。やはり優しい男がモテるということでしょうか。

菊水先生 群れを協調的に取り仕切れる能力があり、雌をある程度立てられないとボスにはなれません。群のボスが交替争いをする時、雌のチンパンジーやゴリラはサポートに入るんですよ。雌から多くサポートを受けている雄は、自分が弱くてもボスになれちゃう。

白河さん 遺伝子検査をすると、一番優位な雄の子どもは4~6割で、残りははぐれ雄なんかと浮気してできていることもあるんですね。

菊水先生 「グッドジーン、グッドダッド」という言葉がありますが、交尾相手はグッドジーン(良い遺伝子)がいい。でも、つがって一緒に生活するときはグッドダッドのほうがいいんです。一夫一妻をとりながら、雌はグッドジーンをどこかで探していて、グッドジーンだけもらって、育児は縄張りが広くて餌が豊富なグッドダッドにしてもらうという雌の戦略ですね。

白河さん 人間でも、遺伝子検査をまじめにやると問題の起こる家庭は多いと聞いたことがあります(笑)。
若い時に結婚して子どもを作ってすぐ離婚し、その後に子育てに良さそうな男性を見つけている女の子を見ていると、無意識の戦略だなと思いますね。

菊水先生 浮気遺伝子というのもあるんですよ。一夫一妻のプレーリーハタネズミの中にも、ペアの絆が堅いタイプと緩いタイプがいて、その遺伝的多型(遺伝子の性格の違い)を調べると、バソプレッシンというホルモンの受容体に差があることがわかっています。人間にも同じように多型があり、スウェーデンの研究者グループが複数のカップルを調査した結果によると、男性の浮気が原因でケンカをした回数と、その遺伝的多型ときれいに相関していました。

白河さん 浮気をするかしないか、遺伝的な素質によって異なるということですね。

菊水先生 一夫一妻を決める遺伝子にもAタイプとかBタイプとかがあって、それによって男女関係の問題の起こしやすさが違う。この調査で面白かったのは、しっかり一夫一妻で外に出ていかない男性と一緒にいれば、女性がハッピーかというと、そうとは限らない、女性の満足度は男性の遺伝型にまったく関係ないということです。

白河さん 浮気遺伝子をもっていようがいまいが、満足度には関係ないと。男の報酬って単純ですけど、女性の報酬は何というと、難しくて複雑。カップルの満足度もそれと一緒ですよね。男が浮気するからといって不満足でもなく、かといってグッドジーンだけど子育てに非協力的では不満足…。

菊水先生 女性の報酬系に関しては、まだまだ研究が必要ですね。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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菊水健史
麻布大学 獣医学部伴侶動物学研究室 教授

1970年、鹿児島県生まれ。東京大学獣医学科卒業。獣医学博士。三共株式会社(現第一三共株式会社)神経科学研究所研究員、東京大学農学生命科学研究科(動物行動学研究室)助手を経て、2007年より麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室准教授、09年より同教授。専門は行動神経科学。同研究室では、母と子の絆と発達との関係、母子間・雄雌間のコミュニケーションの解析、犬の社会行動の3つを主なテーマに研究を行っている。最新著書に『いきもの散歩道—動物行動学からみた生物の世界—』(文永堂出版)がある。