白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回のゲストは総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子さん。性にまつわる様々な問題は、先生が専門とする生物学の大きなテーマ。生物界に見られる雄と雌の関係から、人間の男と女の関係を考察。負け犬や草食男子、浮気の話、人間の子育ての話と、なるほど納得の話を披露してくださいました。

第2回 男と女、二つの性がある理由

白河さん おばあさんは子育てを援助する役割がありますが、おじいさんの役割りはこれから発生してくる、とても新しいものなんですね。

長谷川先生 そうかもしれません。狩猟採集民にも65歳以上の男性は6%存在します。その人たちは体力的にも優れ、運も良かった人たちです。彼らは長老として、狩猟のやり方や道具の作り方、敵との交渉の仕方を伝承したのでしょう。でも大量のおじいさんがいる社会は初めてのことだと思うので、どうなることか。なかなかやりにくい社会かもしれません(笑)。

白河さん 「草食男子」も出現していますが、どう思われますか。

長谷川先生 まず、子どもを産みたくない女性が増えたという話から始めましょう。生物にとって一番重要なのは、自分自身の生命を維持することです。だからいっぱい食べて体を作る。そして一定の大きさになって余剰分ができたら、繁殖に回すのです。自分自身の維持発展に投資する時期と、その余剰分を繁殖に投資する時期には、かならず「切替え」があります。

白河さん 産まない女性は、繁殖より自己投資が楽しくて、なかなか切り替わらないということですか。

長谷川先生 長い目で見て、女性は大人になった後、自分自身を維持したり発展させるための自己投資するチャンスが与えられなかったでしょう。結婚して子どもを産むという選択肢しかなかった。でも結婚も出産も自由になり、しかも自分が働いて稼いだお金を自分で使うことができるようになった。自分に投資していいんだという選択肢を持てたのです。

白河さん 自己投資は楽しいし、子育ては大変そうだから魅力的に見えない……。

長谷川先生 そう。それで子どもを産みたい人が減るのだと思います。その男性版が草食系男子ではないですか。子どもを持つこと、会社で偉くなって稼ぐこと、そういったプレッシャーがなくなり、パーソナルなことに投資していいんだと気づいた。

白河さん 女性より10年ほど遅れてきたわけですね。女性が自己投資に一番励んだのはバブル期です。でも今は余裕がなくなり、温かな家庭がほしい、子どもがほしいと一巡してきてしまった。ところが男性は、ちょうど今が楽しい時期。限られた資源は、繁殖よりガンダムに投資したほうがいいとなる。「結婚して」「専業主婦になりたいの」という女性が寄ってきたら、うざいと思われてしまいますね(笑)。

長谷川先生 この社会は自己投資のほうにスイッチが入りやすくなっています。しかも繁殖が魅力的に見えなかったら、どんどんそっちにいく。その結果が草食系男子と負け犬女子ではないでしょうか。



「第3回 モテる雄の謎」へつづく

今週の気になる「お言葉」
これだけのいろいろなことを考える脳が、完全に合致する相手を見つけるなんてあり得ません。
この社会は自己投資のほうにスイッチが入りやすくなっています。しかも繁殖が魅力的に見えなかったら、どんどんそっちにいく。その結果が草食系男子と負け犬女子ではないでしょうか。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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長谷川眞理子
総合研究大学院大学教授

1976年東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。早稲田大学政治経済学部教授を経て、現職。ニホンザル、チンパンジー、野生のヒツジ、クジャクなど多くの動物を観察した成果を投入し、進化生物学、行動生物学の視点から複雑な人間の研究に取り組む。著書に『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊國屋書店)、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書)など。