白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

サイエンスカフェは最終回。今回は日本医科大学大学院教授の佐久間康夫先生をお招きしました。脳と性ホルモンの専門家である佐久間先生に、男脳と女脳の違いや恋愛と脳との関係、性ホルモンの役割などについて、やさしく解説していただきました。

第3回 恋愛をすると、脳の中では?

恋愛もパートナーとの絆にも、実は多くのホルモンが関わっている。恋をするとドキドキしたり、相手が美しく見えたりするのは脳内物質のなせる技。逆に、恋愛にとってストレスは大敵。恋愛ホルモンの産生が抑えられて、恋したい気持ちがひからびてしまうのだという。

白河さん 恋愛をした時、脳の中で何が起きているかはわかっているのですか?

佐久間先生 ある程度わかっているのは「ドーパミン」という神経伝達物質が出てくること。前脳基底でドーパミンの量が増えると、ドキドキして判断力が鈍ってきて、「あばたもえくぼ」に見えるようになる(笑)。

白河さん 判断力が鈍るところが重要なわけですね。

佐久間先生 「吊り橋効果」といういい話があってね。吊り橋の上で緊張している時、勢いに乗って告白すると恋愛が始まりやすいと。つまり、大いなる勘違いから恋愛は始まるということ。若い人たちが草食化してきたなんていうのは、思い切って声をかけてみるところにいかないからだと思う。だいたいね、ストーキングがうまくいったのが恋愛だと言った人がいて(笑)。

白河さん 大いなる勘違いと、それに基づく諦めない行動が必要なわけですね。

佐久間先生 そういう研究は、50年くらい行われてきているんですよ。今は何億円もするMRIを使っているけど、やっていることは脳波を測ってみたり、人間の脳に電極を突っ込んでみた時代とあまり変わりがないんです。

白河さん 恋する男女の脳を分析して、みたいな研究は、つねに誰かがやってきた。

佐久間先生 そうです。だいたいあるところまでは行くんですけど、そこから先はお話になっちゃうんですね。そうしているうちに出てくる役者が増えてきて、昔は性ホルモンだけで話が済んでいたのが、今は社会的信頼関係を作るホルモンなんていうのが登場してきたり。

白河さん 男女の絆を深めるホルモンには、どんなものがあるのですか?

佐久間先生 よく話題になるのは「オキシトシン」というホルモンです。もともとは母乳を出したりするホルモンで、雌のネズミにこのオキシトシンがあると母性行動が起こる。これも実験現象的には確立しているんだけど、羊の場合は、分娩時にオキシトシンが出て、生まれた子どもの匂いとオキシトシンが組み合わさると、「これは自分の子どもだ」という認識ができる。

白河さん 男性を浮気させなくするホルモンもあると聞きました。

佐久間先生 それは「バソプレッシン」というホルモンですね。雌が雄のネズミと一緒にいるのはオキシトシンの作用ですが、雄のネズミが特定の雌とペアを組んで一緒にいるのは、バソプレッシンの作用です。バソプレッシンは本来、尿を凝縮するホルモンです。ホルモンというのは、細胞の表面にある「受容体」に作用して効果を表すわけですが、バソプレッシンの受容体が壊れている雄のグループは、すごく浮気っぽい。ところが遺伝子操作をして、脳のある場所にバソプレッシンの受容体を発現させると、浮気をしないネズミができました、という余計な実験をやったやつがいて(笑)。

白河さん それ、人間にも応用できるのですか?

佐久間先生 バソプレッシンの受容体は人にもあります。「あなたの相手の男性の遺伝子を調べましょう。忠実にいてくれるか、浮気をして逃げ出すか、診断します」という商売をアメリカでやっている人がいます。しかしね、ネズミの実験でこうだから、人でもこうですと言えるのかと。

白河さん たしかに。でも商売にはなりますね。だって浮気をしないホルモンもそうですけど、離婚をする遺伝子が発見されたとか、科学雑誌に載ることがあるじゃないですか。

佐久間先生 離婚するかしないかは、遺伝子や夫婦2人の問題ではなくて、社会によっても違うと思いますけどね。ただ、いくつかのホルモンが存在することはわかってきたし、商売にもできるでしょう。アメリカでは、女性に振りかけたら自分に惚れてくれる薬がサプリメントとして売られています(笑)。男性ホルモンの誘導体を使うそうです。

白河さん それを女性に振りかけると寄ってくる? 要するに惚れ薬ですね。

佐久間先生 そうそう。要するにステロイドホルモンなんですけどね、豚由来なんですよ。人間と豚がどこまで一緒になるのかなあ(笑)。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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佐久間康夫
日本医科大学大学院 医学研究科システム
生理学分野 教授

1975年、横浜市立大学大学院医学研究科生理系修了(医学博士)。群馬大学助教授、ロックフェラー大学准教授、新潟大学助教授、弘前大学教授を経て、93年より日本医科大学教授、医学部生理学(システム生理学)講座の主任を務める。専門は生殖生理学、神経内分泌学、行動神経科学。エストロゲンをはじめ性ホルモンと脳、性行動との関連性、脳の発達と性分化などについて研究を行っている。
http://www.nms.ac.jp/nms/seiri1/