白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回は、動物の行動学が専門の麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室教授、菊水健史さんをお招きしました。動物と人間、求愛行動の似ているところは何か、違うところは何かというお話から、恋愛上手になるためのヒントを探ります。

第4回 さまざまな婚姻の形、そしてもっと恋歌を歌うために

動物の繁殖形態は、基本的に栄養状態が決めると考えられている。経済的な格差が広がりつつある日本社会では、実質的な一夫多妻に移行している感もある。しかし、それで少子化に歯止めがかかるわけではない。必要なのは、生身で勝負して恋歌を歌うこと、共感を得られる社会を作ることだと、菊水先生は言う。

白河さん 動物のつがい方はいろいろ、霊長類にしても一夫多妻、一夫一妻、乱婚と違うとうかがい、驚きました。なぜ種によって違いがあるのでしょう。

菊水先生 霊長類の婚姻形態が様々な理由は、よくわからないんですね。一般的な理論からいうと、栄養状態が婚姻形態を決めると言われています。人間の場合も資源保有ができるようになったことで、婚姻形態が変わったとお話した通りです。

白河さん 栄養状態とは、社会の安定度みたいなものですね。一夫多妻が起こる場合は、貧富の差があって安定するという状態ですか。

菊水先生 そうですね。持てる雄、持てない雄が出てきます。一夫一妻は、中くらいからちょっと低いくらいの栄養状態で、多夫一妻は非常に栄養状態が厳しい状態になりやすいといわれています。どうしてこうなるかというと、雄が育児に関わらないと、子どもは育たないからです。婚姻形態には育児形態が反映されてきます。

白河さん 乱婚はどういう社会なんでしょう。

菊水先生 チンパンジーは乱婚です。乱婚は資源が豊かな社会で起こります。人間でもブラジルの一部の原住民はけっこう乱婚のようですね。

白河さん 今の日本の状態だと、どの婚姻形態が一番いいんでしょうか。

菊水先生 一夫一妻は文化的に譲れないでしょうね。ただ、経済的な差を考えると、一夫多妻型に少しずつ移行しているかなと。お金持ちの男性は3、4回結婚して、子どもが7~8人いるような状況になり得るので、奥さんが3人いれば9人子どもがいるという。

白河さん でも、それが実現できる人は少ないから、人口が増えるわけではないですね。やはり一夫一婦である程度安定していると、一番子どもが増えるのかな。

菊水先生 そうですね。

白河さん 乱婚のチンパンジーは、若い雌だけがモテるわけではないという話も書かれていましたね。

菊水先生 乱婚の場合、出産経験があって子育てが上手な雌に妊娠してもらったほうが、雄は自分の遺伝子がたくさん残せる可能性が高いので、経験豊かな雌がモテるんです。一方、一夫一妻の婚姻形態を持つ動物種では、若い雌がモテる。なぜかというと、交尾経験、出産経験のある雌は、たいていパートナーがいるんですね。だから、雄は若くて未経験の雌を探そうとする。

白河さん 45歳の雌チンパンジーが15歳の雌チンパンジーの3倍モテるという調査結果は、希望のもてるいい話だなと思いました。人間の場合、年上の奥さんは今27%くらいで、その割合は増えてきています。経験値のある成熟した女性がモテる時代が来たのか、乱婚に近くなってきているのか…。

菊水先生 乱婚というより、パートナーを変えられるような状況が来ているからだと思います。

白河さん 確かにそうですね。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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菊水健史
麻布大学 獣医学部伴侶動物学研究室 教授

1970年、鹿児島県生まれ。東京大学獣医学科卒業。獣医学博士。三共株式会社(現第一三共株式会社)神経科学研究所研究員、東京大学農学生命科学研究科(動物行動学研究室)助手を経て、2007年より麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室准教授、09年より同教授。専門は行動神経科学。同研究室では、母と子の絆と発達との関係、母子間・雄雌間のコミュニケーションの解析、犬の社会行動の3つを主なテーマに研究を行っている。最新著書に『いきもの散歩道—動物行動学からみた生物の世界—』(文永堂出版)がある。