白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回は、動物の行動学が専門の麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室教授、菊水健史さんをお招きしました。動物と人間、求愛行動の似ているところは何か、違うところは何かというお話から、恋愛上手になるためのヒントを探ります。

第1回 雄の配偶者獲得戦略――恋歌を歌う

菊水先生 人間の場合は、匂いや音より視線の刺激が強いのですが、たしかにそういう刺激を受けると身体反応がおこります。それでたとえば性ホルモンの分泌が上昇すれば、生殖機能全体が上昇することもあり得ます。

白河さん 人間には発情期がなく、いつでも恋愛できるのですが、恋愛しなくなっていますね。1月に発表された新成人調査では、全体の77%に恋人がなく、男性は約84%に恋人がいなくて、そのうち約47%は一度も恋愛したことがないとう。男の子の場合は、3人以上とつきあったことがある人と、0人という人とが両極化していて、彼女いない歴をずっと更新している人が増えている。それって女性からの刺激が足りないからでしょうか。

菊水先生 動物の世界では、刺激が多すぎると逆に性欲が抑制されてしまうということがあります。例えば、雌の群に雄の匂いをふっと入れると、強く発情が見られます。ところが、いつも雄と一緒にいる雌にはあまり影響がない。雄に対する反応は、ある程度、刺激が制限されている中で起こる。人間社会を見ると、女性に関する情報がメディアやインターネットに溢れている。だから生身の女性と1対1で会ったり話をしたりする時のレスポンスが下がっているのではありませんか。

白河さん 手軽な刺激がありすぎるんですね。

菊水先生 本来は限られたチャンスで、ぐっとモチベーションが上がるはずなんです。ところがもう慣らされていて、いつでも何でも変わらない。勝負所で勝負しない感じです。情報を制限しないとうまくいかないですね。

白河さん 「本能を目覚めさせよう」という女性誌の特集には、かならずテレビ、雑誌、インターネットなどの情報を断食しよと書いてありますが、まさにそれですね。刺激が多過ぎて、必死に恋歌を歌う男性がいなくなりましたけど、恋歌は種を残すために歌うのではなく、楽しい報酬が待っているとわかったら、もっと熱心になるかも。

菊水先生 今の社会は、報酬系も飽和状態ですよね。性的な報酬だけでなくて、お金の報酬とか社会的な報酬などもあり、そういうものにすり替えられる。

白河さん わけのわからない女心を追いかけるよりも、ゲームの中でAKBを47人振って1人選ぶほうがいいと思う男性が出ても仕方がないわけですね(笑)。現代の男子に恋歌を歌わせるのは難しい。でもマウスに負けないように頑張ってほしいです。男子が恋歌を歌うなら、カラオケでもいいし、大きな車に乗れないまでも、2本の手があるんだから重い荷物を持って力を誇示するとか。

菊水先生 そうですね。女性は自分の体形をすごく気にしますよね。それは黄金比というのがあって、ウエストとヒップの比率は7:10がベスト、健康で安産な体型であるとして、男性が女性を選ぶときの情報として遺伝的に受け継がれている嗜好性があるからなんです。だから女性は大事にしようとしますが、男性はちょっとずれ始めている気がします。

白河さん 外見も情報を伝えるのに重要だと思っています。健康な男性である、清潔な男性であるとか、外見からアピールするのは重要ですよね。

菊水先生 本来は顔の左右対称性がとても大事なんですが、それは変えられない。次にくる健康、病気をしていない、元気がいいという条件は変えられます。よく食べてよく寝て、よく運動をして、というのが大事ですね。歩き方も大切なので、左右対称で歩くのも大切です。

白河さん ディスプレイをしようにも資源がない男性にも戦略があるそうですね。専門的にいう「劣位の雄」にもそれなりの戦略があると。

菊水先生 例えば魚だと雌のふりをして縄張りに侵入して、雌だという顔をして、産みつけられた卵に精子をかけて子孫を残すとか。

白河さん 人間でいうと、あまり男らしくなくて、普段は共感できる女友だちみたいなのに、2人きりになると突然男になるとか。それも戦略の一つかなと。

菊水先生 そうそう。あとは幼児プレイですね。子どものふりをして女性を引き寄せるのも一つの手段ですね。数はあまり多くないと思いますが(笑)。

白河さん 左右対称で完璧な男性ばかりではなく、母性をくすぐられる男とか、さまざまなパターンに目を向けてもいいということですね。



「第2回 雌の配偶者戦略――「美しい雌」は人間だけ」へつづく

今週の気になる「お言葉」
「私は優秀な雄です!」と言い続けるだけで、それで雌が反応してくれれば、あとは「よろしくお願いします」と後ろを追いかけて行って乗っかります。

人間社会を見ると、女性に関する情報がメディアやインターネットに溢れている。だから生身の女性と1対1で会ったり話をしたりする時のレスポンスが下がっているのではありませんか。

(女性の場合)ウエストとヒップの比率は7:10がベスト、健康で安産な体型であるとして男性に遺伝的にすりこまれているからなんです。





写真

白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



写真

菊水健史
麻布大学 獣医学部伴侶動物学研究室 教授

1970年、鹿児島県生まれ。東京大学獣医学科卒業。獣医学博士。三共株式会社(現第一三共株式会社)神経科学研究所研究員、東京大学農学生命科学研究科(動物行動学研究室)助手を経て、2007年より麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室准教授、09年より同教授。専門は行動神経科学。同研究室では、母と子の絆と発達との関係、母子間・雄雌間のコミュニケーションの解析、犬の社会行動の3つを主なテーマに研究を行っている。最新著書に『いきもの散歩道—動物行動学からみた生物の世界—』(文永堂出版)がある。