白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回は、動物の行動学が専門の麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室教授、菊水健史さんをお招きしました。動物と人間、求愛行動の似ているところは何か、違うところは何かというお話から、恋愛上手になるためのヒントを探ります。

第1回 雄の配偶者獲得戦略――恋歌を歌う

雄の性行動はとても単純。大きな体を誇示したり、歌を歌ったりして一生懸命にアピールし、雌に選んでもらったら「よろしくお願いします」と交尾をする。それが報酬になるという。しかし人間の雄はあまり恋歌を歌わなくなってしまった。その原因には、多すぎる情報と、報酬系の飽和があると菊水さんは指摘する。

白河さん まずは動物行動学からみて、雄と雌の繁殖戦略についてうかがいたいのですが。

菊水先生 生物の繁殖戦略には、無性生殖と有性生殖の2つの繁殖戦略があります。人間を含め、多くの種は雄と雌がいて受精が行われる有性生殖です。そして雄は雄特有の、雌は雌特有の行動をとることが知られています。

白河さん 雄動物は交尾刺激が「報酬」になるという話が面白いなと思いました。

菊水先生 性行動や出産育児など、性に関わる行動は、雄にとっても雌にとっても、個体に対してかなり負荷がかかる行動なんですね。それを克服するためのメカニズムが脳の中にあって。

白河さん それが報酬なんですね。

菊水先生 そうです。生殖行動や生殖に対するモチベーションは、報酬系と一緒に動かない限り、動物は好んでやろうとはしません。それゆえ報酬系との結びつきが非常に強いんです。

白河さん 本能である、義務である、この種を絶やしてはいけない、という使命感ではなく、何かいいことがあるさ、という報酬で動物は動くわけですね。

菊水先生 脳の中で、報酬系といわれるドーパミンが出てくるんです。ドーパミンが出ないと、運動活性が上がったり、何かの行動を起こしたり繰り返そうということにならないんです。

白河さん 雄はすごく単純で、雌とつがいになって射精することが報酬になるのですね。

菊水先生 そうです、それが報酬です。雄動物は多くの場合は単純な行動パターンを持ちます。性選択、つまり適切な交配相手を見つける場合でも、雌動物のほうが強い嗜好性を持ちます。雄が雌を選ぶ例はそれほど多くありません。複雑な情報をもとに交配相手を判断するのは雌で、雄は選ばれたら「じゃあ、よろしくお願いします」と。受け入れてくれる雌がいれば、マウントをして交尾が始まります。

白河さん 誘うのも雌ですか?

菊水先生 そうです、誘因は雌がします。

白河さん でも雄もアピールしますよね?

菊水先生 雄の場合は性の誇示、ディスプレイをしているんですね。「私は優秀な雄です!」と言い続けるだけで、それで雌が反応してくれれば、あとは「よろしくお願いします」と後ろを追いかけて行って乗っかります。

白河さん 雄のディスプレイには、いろいろな方法があって面白いですね。

菊水先生 いろいろな形で、雄らしさを表現する方法を身につけていますね。例えば、鳥の雄はきれいな羽を持ったり歌を歌ったり。ほ乳類は体を大きく見せたりしますね。ライオンはたてがみが黒いほうがモテることも実験結果から知られています。茶髪はモテません(笑)。

白河さん 初めてお話をうかがったとき、動物が恋歌を歌うと聞いて感動しました。しかも鳥だけでなく、ねずみも歌を歌うそうですね。

菊水先生 マウスの出す超音波を解析したら、歌構造を持っていたという研究報告があります。100khzくらいの超音波なので、人間の耳には聞こえないのですが。

白河さん ちっちゃいマウスが一生懸命に恋歌を歌っている、なんていじらしいんでしょうと思ってしまいました。それに比べて最近の人間の雄たちは、自分から恋歌を歌わなくなっている気がします。人間の雄のディスプレイって何になるんでしょう。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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菊水健史
麻布大学 獣医学部伴侶動物学研究室 教授

1970年、鹿児島県生まれ。東京大学獣医学科卒業。獣医学博士。三共株式会社(現第一三共株式会社)神経科学研究所研究員、東京大学農学生命科学研究科(動物行動学研究室)助手を経て、2007年より麻布大学獣医学部伴侶動物学研究室准教授、09年より同教授。専門は行動神経科学。同研究室では、母と子の絆と発達との関係、母子間・雄雌間のコミュニケーションの解析、犬の社会行動の3つを主なテーマに研究を行っている。最新著書に『いきもの散歩道—動物行動学からみた生物の世界—』(文永堂出版)がある。