白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回のゲストは、東京大学教養学部付属教養教育高度化機構で教鞭をとる坂口菊恵さん。著書『ナンパを科学する』では、さまざまな科学的データを用いて、進化心理学の領域からナンパや配偶行動を検証して話題になりました。この対談でも、男と女の感じ方の違いや配偶者獲得の戦略について、たっぷりとお話していただきます。

第1回 男と女の感じ方はこんなに違う

白河さん パートナーの浮気によって生じる不快感も男女によって違うのでしょうか。

坂口先生 女性はパートナーの「心理的浮気」に心を乱され、男性はパートナーの「性的浮気」によってより心を乱されやすいという性差が一般的にあると言われています。男性からパートナー女性に対する攻撃行動も、男性が女性の浮気を疑った場合にエスカレートしやすいことが知られています。

白河さん この話は面白い。どこまでが浮気かという線引きについて、私も男女で違うと思っていましたが。

坂口先生 女性からみると、時間とお金をよその女に投資をされるのが嫌なんです。「遊びならいいけど」という言葉がありますが、パートナーが風俗に行くのは許せるけど、他の女性に誕生日のプレゼントを買ったり旅行に連れて行くのは許せないという人は多い感じがします。

白河さん 誕生日にプレゼントするということは、まずその人の誕生日を意識し、プレゼントを選ぶために時間とお金をかけているわけですよね。

坂口先生 気持ちが「そっちに」いっていることを女性は気にしやすい。一方、男性は性行動自体があったかどうかを気にします。男性の女性に対する暴力は、女性の性的な行動をコントロールするのが一つの目的です。そして、女性が浮気をしているのではないかと思うとエスカレートしやすい。女性を自分の性的な所有物ととらえているからです。

白河さん 「相手の嫌なことはしないように」「男も女も相手の気持ちになって」とか言いますが、やはり現実には難しいですね。男女のコミュニケーションを学ぶためにはロールプレイングがいいと言われますが、それは効果的でしょうか。

坂口先生 実学のほうはよくわかりません。ただ、男性が女性の気持ちをわからないということに関していうと、家族の中に女性は母親しかいなくて、中学高校と男子校だった男の子に「女性の気持ちをわかれ」といっても無理な話だと思います。

白河さん たしかにそうですね。やはり男女に違いがあるという認識のもと、お互いを知る機会を持たせたほうがいいということですね。

坂口先生 お互いに多少傷ついたとしても、異性と交流する機会を持たせた方がいいと思います。

白河さん 最近、恋愛をするための教育が必要だと言われますが、今の日本では学べる場がないんです。先ほど話に出た、まるっきり女性と接したことのない男の子が、女性と初めて接する場面のような、男と女が関わり合うイロハを学ぶ場はないでしょうかね。

坂口先生 それは男女間に限ったものではなくて、人間関係を学ぶ場だと思いますね。女性と接した経験がないまま社会に出た男の子がどうなるかというと、男女を対等に扱う社会制度や女性に配慮された社会制度が、すごく奇異なものに見えると思います。「なぜ女性ばかり優遇されるのか、女性なんて自分の周りに一人もいないのに」と。彼らが会社や行政で意思決定するポジションに就くとしたら、世の中には女性も存在するという観点には立てないだろうと思います。

白河さん たしかに。しかも、そういう男の子が意思決定の場に行ってしまいやすいところが怖いですね。

坂口先生 そういう意味でも、双方向に歩み寄っていくような教育は必要です。女性には、男性は自分の能力や稼ぐ力、地位をけなされたりするのを嫌がること、下着が見えそうな格好をしていると男性はすごく気になること、そういう状況を男性はどう解釈するかなどを教えることが大切ではないですか。

白河さん 私は、パートナーシップ教育のようなものがあってもいいと思っています。日本家族社会学会のシンポジウムで、フランス、スウェーデン、アメリカの家族と日本の家族を比較する研究発表があり、その話を聞いていて、日本はパートナーシップ文化を構築しないまま核家族になり、今混乱していると思いました。欧米の場合、子どもは親からパートナーシップを学びますが、日本の子どもは自然に学ぶ場がないですから。

坂口先生 日本の場合は、家社会や生業形態から、もともと夫婦関係は欧米に見られるほど重要ではありませんでした。一夫一婦制が至上だという価値観は戦後に入ってきたものですし、生活の実態が伴っていないことも多いですね。例えばアメリカだと、「単身赴任するくらいなら会社を辞める」という話も聞きます。それを考えると、日本は父親不在社会ですね。

白河さん 夫婦で行動することもあまりないですしね。父親、母親を見ていても、「こうすれば女性は喜ぶ」とか、「男性にはこういう風に接した方がいい」ということを学ぶのは難しい。パートナーシップについて、先生が書かれたような本にのっとって教えてくれるところがあってもいいのではと思います。



「第2回 ナンパされやすい人、されにくい人」へつづく

今週の気になる「お言葉」
同じ“親しげな行動”でも、女性より男性のほうが性的な意図を付与しやすいのです。

男性には、自分が関心あること以外は気づきにくいという傾向があります。例えば、いつも一緒に働いている女性が10cmくらい髪を切っても気づかないとか・・・

女性はパートナーの「心理的浮気」に心を乱され、男性はパートナーの「性的浮気」によってより心を乱されやすいという性差が一般的にあると言われています。

男性が女性の気持ちをわからないということに関していうと、家族の中に女性は母親しかいなくて、中学高校と男子校だった男の子に「女性の気持ちをわかれ」といっても無理な話だと思います。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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坂口菊恵
東京大学 教養学部付属教養教育高度化機構 特任助教

1973年、北海道生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。日本学術振興会特別研究員。上京後、数年間のフリーター生活を経て東京大学に入学し、進化心理学を学ぶ。専修大学、早稲田大学、東京女子大学の非常勤講師を経て、2010年より現職。09年、ヒトの恋愛・性行動にまつわる疑問を進化心理学の視点から検討した著書『ナンパを科学する——ヒトのふたつの性戦略』(東京書籍)を発表して注目を集める。
http://orange.zero.jp/ksakaguti.bird/