白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回のゲストは総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子さん。性にまつわる様々な問題は、先生が専門とする生物学の大きなテーマ。生物界に見られる雄と雌の関係から、人間の男と女の関係を考察。負け犬や草食男子、浮気の話、人間の子育ての話と、なるほど納得の話を披露してくださいました。

第4回 これからの恋愛・結婚は

時間と労力のかかる人間の子育てを、母親一人で背負うのは無理なこと。人間の子育ては共同繁殖。幅広い人間関係の中で、助け合っていくのが本来の姿という。ヨーロッパのように同棲や婚外子を認めるようになれば、シングルマザー=孤独な子育てというイメージから脱出できるのかもしれない。

白河さん 子どもの虐待が報道され、その背景に母親の孤独があったりすると、やはり母親一人で子育てしろと言うのは無理だと思います。先生は、子育てのパートナーは男性に限らないと書かれていますね。

長谷川先生 人は完全に共同繁殖だから、夫や父親は子育て助力の一つのオプションに過ぎないと思っています。サラ・ブラファー・ハーディーというアメリカの人類学は「mothers」と「others」が人類の子育てのカギで、othersにはいろんな人が入っていると言っています。人を一人前に育てるには、mothersだけでは不十分で、othersも必要だと。彼女はまた、人類の歴史上、父親というものが本当に頼りになった時代がどれだけあっただろうかと言っています。

白河さん 夫が狩りで得たものだけで生活している場合、妻はその支配下に入るしかない。でも夫がとってくるものが不安定になると、妻は農耕で安定した恵みを得る。自立して子育てできるんですね。

長谷川先生 日本は核家族のなごりで、母やが子育ての責任者という意識が強い。でもそれは大間違いです。othersがどれだけいるかがカギなんですから、祖父母、兄弟姉妹、母親の友だちネットワークなどが、お互いに子どもを預け合ったりしないと。

白河さん 子どもを預けて働くことに罪悪感を抱いている女性は、人間はもともと共同繁殖なんだと思えば楽になります。

長谷川先生 預けていることに母親が罪悪感を感じるのであれば、父親はその2倍罪悪感を感じてほしいですね。

白河さん 一人で育てなければいけないという、母親へのプレッシャーがあまりにも大きいから、みんな結婚や出産に踏み出せないのだと感じています。昔も母親へのプレッシャーは大きかったのかしら。

長谷川先生 それはないと思います。隣の声が聞こえる長屋住まいですもの、赤ん坊の鳴き声が聞こえたら誰かが顔を出すでしょう。でも今のマンションでは、よその声は聞こえないし、聞こえても知らん顔かもしれませんね。
プライバシーやパーソナル化はある意味で人間を解放したけれど、もともと社会にあった暗黙のセイフティネットを失いましたね。プライバシーとパーソナル化が金科玉条になって、コミュニティの再構築も難しい。でもこのままでは、孤独で虐待されている子どもは救えません。個人の権利やプライバシーの侵害に関する基準を変えて、コミュニティを再構築する、いいとこどりをしないと。

白河さん 一度失ったコミュニティを再構築するにはものすごいコストがかかります。孤独な子育ては防ぎたいと思うけれど、今はシングルマザー、シングルファザーになることも多く、仕事を辞めないと子育てできない状況もあります。もっと支援が必要だと思います。

長谷川先生 夫婦だけでも無理なのに。日本はまだ結婚するか、しないかのゼロイチでしょう。同棲や事実婚でも同じ手当を付けてもいいのに。戦後60年経っても、日本はそこが変わらない。ヨーロッパなど3割くらいが同棲カップルの子どもですよ。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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長谷川眞理子
総合研究大学院大学教授

1976年東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。早稲田大学政治経済学部教授を経て、現職。ニホンザル、チンパンジー、野生のヒツジ、クジャクなど多くの動物を観察した成果を投入し、進化生物学、行動生物学の視点から複雑な人間の研究に取り組む。著書に『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊國屋書店)、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書)など。