白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回のゲストは総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子さん。性にまつわる様々な問題は、先生が専門とする生物学の大きなテーマ。生物界に見られる雄と雌の関係から、人間の男と女の関係を考察。負け犬や草食男子、浮気の話、人間の子育ての話と、なるほど納得の話を披露してくださいました。

第3回 モテる雄の謎

長谷川先生 それには面白い話があります。ベネズエラにアチェという、狩猟採集と焼き畑農耕をやっている集団がいます。彼らを研究しているアメリカの人類学者が、アチェの男性に「どういう男がもてるか」とインタビューしたそうです。アチェの男性が「力が強くないともてないよね」と言うので、人類学者が「ケンカに強いこと?」と聞くと、「ケンカなんかしちゃダメだ。そういう強さじゃない」と。「大雨の日に薪を切ってしょって帰って来られるような強い男」「子どもを肩車して何キロも森の中を歩ける男」「みんなが困っている時に、火を炊いて冗談の一つも飛ばせるやつ」と答えたんですって。

白河さん 「火を炊いて冗談の一つも言える」って、心にきました! 女性はみんなそういう人が好きだと思います。

長谷川先生 私たちと、とても似た感覚を持っているでしょう。強さとはケンカに強いことではなく、役に立つ強さだと。人が困っている時に、一人で出かけて何かを達成してこられるようなことだと。それは「優しさ」だというのです。人間の雄・雄競争は、シカ同士の角突き合わせた闘いとは違うんですよ。

白河さん だから今、女性たちの気持ちは引き裂かれているんです。強い人がいいと思う反面、実際の生活を考えると、強いだけでは困る。仕事優先で子どもの送り迎えもしてくれない男性より、「僕がちょっと早く帰って迎えに行くよ」という男性の方が好ましくなってきていると思います。女性も子どもを育てるための資源を同等に稼ぐようになり、資源を持ち返るだけの男性より、子育てに参入してくれる男性がいいと変化してきています。

長谷川先生 戦後の日本の家族モデルのような、夫が働いて奥さんは専業主婦で、職場と家庭が分断されて、というの状況が、人類社会の中でおかしい。こんなことは戦後の資本主義工業化の中で起こったことで、それ以前は父親も母親も働いていました。食糧の獲得と子育ても同じ地域内で行われました。それをわざわざ分断して、完全分業的に専業主婦を作ったのが戦後の日本です。

白河さん でも、本当にその縛りが強くて。今、アンケートをとると、専業主婦志向の女性は30%くらいいます。とはいえ、実際に専業主婦になれると思っている人は1ケタ台なので、みんな現実はわかっているようですが。

長谷川先生 戦争中は軍人がモテるように、男性の魅力は社会や時代によって変わりますよ。

白河さん となると、これからは雄・雄間で「優しさ競争」が起きるかもしれません。

長谷川先生 (笑)鳥の雌だって、ケンカに強い雄が好きなわけじゃありませんよ。雄・雄競争に勝った雄は広い縄張りを持てますが、攻撃性が高いから雌のこともいじめるし、ヒナを突ついたり卵をつぶしたりもする。雌はそういう雄を選びません。

白河さん たしかに。最近はガンガン稼いでくる男、出世する男性より、安定プラス家事・育児に協力的で浮気をしない男性が好まれる傾向にあります。女性も働いていますからね。モテる雄は社会や時代によって変容するので、その潮目をつかめということですね。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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長谷川眞理子
総合研究大学院大学教授

1976年東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。早稲田大学政治経済学部教授を経て、現職。ニホンザル、チンパンジー、野生のヒツジ、クジャクなど多くの動物を観察した成果を投入し、進化生物学、行動生物学の視点から複雑な人間の研究に取り組む。著書に『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊國屋書店)、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書)など。