白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回のゲストは総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子さん。性にまつわる様々な問題は、先生が専門とする生物学の大きなテーマ。生物界に見られる雄と雌の関係から、人間の男と女の関係を考察。負け犬や草食男子、浮気の話、人間の子育ての話と、なるほど納得の話を披露してくださいました。

第1回 人間にだけ、なぜ負け犬が生まれるのか

白河さん ああ、今の女子たちには頭が痛い話です。そうなると人間の女性は、産み終わり以降の人生の意味を見い出さなければなりませんね。先生は、おばあさんがいることによって、知恵が継承されていくとおっしゃっていますが。

長谷川先生 「おばあさん仮説」という説明があります。人間にだけおばあさんがいるのは、一人で産んで育てていくのが大変すぎるからだと。そもそも若くて元気な時だって、母親一人で産み育てることなんてできないんですよ。

白河さん たしかに一人前にするまで、長い時間と労力がかかりますね。

長谷川先生 そうです。みんなの助力を得なければできない子育てなのです。人間は「共同繁殖」する動物です。そこで、途中で閉経して自らは繁殖をやめたおばあさんが、まだまだ元気な体と知恵を、次の世代の子育てに使う。ミルクは出せなくても、大きなプラスが孫の世代にいくので、孫の生存率も上がる。この「おばあさん仮説」のことを、私はとてもかっています。

白河さん なるほど、おばあさんには大切な役割りがあるのですね。 人間の雌に「負け犬仮説」はありませんか? 動物の雌は普通、卵を生むなり出産するなり、とにかく繁殖しようとしますよね。

長谷川先生 自分で産みたくないという女性がいること? 

白河さん 産みたくないというより、繁殖より相手選びや自分の人生を優先して産み時が過ぎてしまうとか……。昔の女性に比べて、産む人数も減っていますし。

長谷川先生 ええとね、人間はもともとそんなにたくさん子どもを産めないのですよ。子育ては大変だし、出産による母親の死亡率も意外と高いし、なぜか医学的にもわからないけれど、他の動物に比べて人間の妊娠率は非常に低い。

白河さん 多産が当たり前ではないんですね。

長谷川先生 ホモサピエンスの歴史の99%は狩猟採集生活です。人類学では「最近の20万年」「最近の200万年」の話をするので、その尺度で考えた時、現代社会はものすごくヘンな社会でしょう。だから「人間は本来どうだったか」を考える時は、狩猟採集民社会をみるのがとてもいい材料になります。

白河さん 「最近の20万年」ですか(笑)。

長谷川先生 狩猟採集民は普通、たくさん出産しないんです。4~5年に1度くらい産んで、子どももよく死にますから、それほど多く残らない。それで人口が爆発的に増えることがない。戦前の日本のように、子どもが10人もいるほうが異常です。これは農耕社会になり、食糧が蓄えられるようになった一部の社会だけにだけ起きたこと。あれが人間の本来の姿ではありません。人口は二人産んで安定するわけですから、二人かちょっと少ないか、ちょっと多いか、その辺が自然です。

白河さん 今はそれすらも達成できない状況です。

長谷川先生 そこには、現代社会の固有の何かの問題があるわけですよね。





写真

白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



写真

長谷川眞理子
総合研究大学院大学教授

1976年東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。早稲田大学政治経済学部教授を経て、現職。ニホンザル、チンパンジー、野生のヒツジ、クジャクなど多くの動物を観察した成果を投入し、進化生物学、行動生物学の視点から複雑な人間の研究に取り組む。著書に『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊國屋書店)、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書)など。