白河桃子の恋愛サイエンスカフェ

今回のゲストは総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子さん。性にまつわる様々な問題は、先生が専門とする生物学の大きなテーマ。生物界に見られる雄と雌の関係から、人間の男と女の関係を考察。負け犬や草食男子、浮気の話、人間の子育ての話と、なるほど納得の話を披露してくださいました。

第1回 人間にだけ、なぜ負け犬が生まれるのか

動物の雌は繁殖期が終わると、ほどなく寿命が尽きる。しかし人間の女性は閉経後も何十年と生きる。人間にだけおばあさんがいるのは、次の世代の子育てをサポートするため。さらに子どもを産まない女性も、生産という手段を通じて子育てに参画しているという。

白河さん 以前、長谷川先生に「人間とクジラにだけ、おばあさんがいる。普通、雌は繁殖期が終わると寿命が終わる」というお話を聞いて衝撃を受けました。

長谷川先生 動物の雌は、産み終わり時が死に時です。でも人間は違う、しかもずっと元気で生きています。

白河さん 現代は、生み終わった後の時間の方が長い気がします。これは、人間にだけ備わったアドバンデージですか?

長谷川先生 そうです。人間の場合は病気や怪我で死ぬことがなければ、老衰で、つまり体の細胞が維持できなくなって死ぬ。その時期がいつに設定されているかというと、だいたい昔から80歳、90歳です。
調べてみると、医療や福祉が発達したから寿命が伸びたのではなく、もともと一部の人間は、70歳、80歳まで生きるというのが本質ですね。

白河さん 本来なら病気や事故で死んでいたであろう人も含めて、年寄りまで生きる人が増えたということですね。

長谷川先生 人間以外に、ヒトに最も近いチンパンジーも含め、産み終えた後、何十年も生きる動物はいません。卵の衰えと体の細胞の衰えが一致しています。人間の場合は、45歳くらいまでに卵がなくなるのですが、体の細胞は維持し続けるというズレがある。これは人間の生物学的な特性といえます。

白河さん となると、チンパンジーはかなりの高齢出産しているのですね。死ぬ間際まで出産し続ける。

長谷川先生 そうです。40歳代で出産して、50歳で死ぬ。最後の子どもとは共倒れになることもあります。

白河さん 人間も、「人生50年」と寿命が短かった頃には、そういうこともあったわけですね。

長谷川先生 最近、野生のチンパンジーの集団と、狩猟採集生活を送る人々の出産を比較した詳しい研究結果が出ました。ヒトもチンパジーも、繁殖のピークは20~30代、繁殖力が一番高いのは20代前半から30代前半で、産み終わり時もほぼ同じで48歳くらいでした。

白河さん 人間も動物である以上、そこからは逃れられないわけですね。

長谷川先生 何が違うかというと、人間はそこから先の寿命がめちゃめちゃ長いけれど、チンパンジーはほどなく死んでしまう。人間は寿命が伸びたけれど、繁殖年齢は伸びなかったということです。





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白河桃子
ジャーナリスト&
ライター

家族社会学会会員。慶應義塾大学文学部卒業後、大手商社に入社。外資系証券会社を経てジャーナリスト、ライターとして活躍。「プレジデント」「日経ビジネスオンライン」、「婦人公論」など多数の女性誌に執筆。女性の年代別ライフスタイル、未婚晩婚、少子化などに関するインタビューがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著の『「婚活」時代』は19万部のヒットに。著書に『キャリモテの時代』ほか、最新著書に『セレブ妻になれる人、なれない人』がある。
ブログ:http://www.diamondblog.jp/touko_shirakawa/



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長谷川眞理子
総合研究大学院大学教授

1976年東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。早稲田大学政治経済学部教授を経て、現職。ニホンザル、チンパンジー、野生のヒツジ、クジャクなど多くの動物を観察した成果を投入し、進化生物学、行動生物学の視点から複雑な人間の研究に取り組む。著書に『クジャクの雄はなぜ美しい?』(紀伊國屋書店)、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『オスとメス=性の不思議』(講談社現代新書)など。